2015年 07月 22日
シンバルよ、輝け!
台湾に演奏旅行に行ったことがあります。
シンバルは、台湾のオーケストラからお借りしました。年代物のとっても大きなシンバルです。練習の時に叩いてみると、その音の大きさ響きのよさに、オーケストラの団員たちがびっくりしていました。シンバル製作は職人の技であり、世界中でよいシンバルは中国とトルコでしかできない、と聞いていたことを思い出しました。
そして、本場を迎えました。私が思いっきりシンボルを叩くと、客席にいた子供たちが大喜びで、立ち上がって一緒に手を叩くのです。
演奏会が終わってパーティーがありました。台湾の人たちが私を見て「あ、シンバルを叩いていた人ですね。」すぐにわかっていただき、大いに受けました。
そして、もう一つ。
これは日本での演奏会ですが、思い出深いのがサンサーンスのピアノ協奏曲第2番です。全部で三つの楽章からなる。20分ほどの曲です。
最後の第3楽章で3回だけシンバルが打ち鳴らされます。練習の時に何度やってもうまく叩くことができません。レコードを買ってきて、何回も聞きました。オーケストラのスコアも買いました。オーケストラの全部のパートが載っている楽譜です。フランスで出版され、解説もフランス語です。とても高かったのですが惜しいとは思いませんでした。わからないなりに楽譜をめくり、レコードを何度も何度も聴きました。その当時のレコードというのは「LPレコード」といって、レコードの針が直接に盤面に触れて音を出します。何度も聞いているうちにレコードがすり切れていってしまうものです。そのうちにだんだんシンバルの音が何を意味しているのかが、わかってきました。
本番です。
夢見るようなピアノのソロで曲は始まります。
弦楽器が、あるときは囁(ささや)くように、そしてあるときは華やかに奏でられ、管楽器が色を添え、ティンパニーが力強く、時にはリズミカルに曲をリードします。
そして、第3楽章の最後近く。シンバルが打ちならされ、夢の終わりを告げるのです。
本番は大成功でした。ソリストが花束を受け取り、涙をながします。聴衆が熱狂的な拍手を送ります。
私はふとこんな事を考えました。
おめでとうございます。あなたの精進の賜物です。
でも、時には思い出してください。
全曲の中でシンバルをただ3回叩く。そのためだけにスコアもレコードも買い、幾度も幾度も練習して、そのときに心を込めて打ち鳴らした男がいたことを。
虎猫
by covenanty
| 2015-07-22 21:46
| 音楽